「ルビー?」
「何?」
ボクは裁縫の手を止めた。
顔を上げると正面には、身を乗り出して恐る恐る僕を除きこんでいる―
サファイア。
「直る…やろか?」
「直すさ。
別にそんなに心配しなくてもいいよ。」
ボクが縫っているもの、それはルリリの人形だった。
ここ、ひみつきちに置いてあったもので、先程彼女が破いてしまった。
相当申し訳なかったのか、ボクが縫う様子をずっと無言で見つめていた。
ボクの言葉を聞くと彼女はほっとしたのか、腰を下ろし、座り直した。
距離が、少し遠退いた。
「ルビーは器用やね!あたしにはできんとよ。」
そう言った彼女の顔は、ボクにとって眩しすぎる笑顔。
さっきまでの不安な気持ちは、どこかに行ってしまったよう。
ホントもう…分かりやすいなぁ。
「キミが不器用なんだよ。
裁縫や料理くらい、女のたしなみで身に付けてもらわないと困る。」
こんな言葉、掛けたいわけじゃない。
何か言いたくて、でも何も言えなくて。
一言多いのはいつもだ。
素直になれないよな…お互い様だけど。
…っていうか、ホントこのままだと、家事は全部ボクがやることになるんじゃないか?
ふと笑いが消えた彼女の顔は、みるみる怒りの感情を表してくる。
コロコロ変わる喜怒哀楽の顔。
―ボクはこんな彼女の表情を見たいがために…こんな態度を取っているのかもしれないな。
「な、なんね!
あんたはそぎゃん風に外にも出んで、細かいことばっかりやっとるから…」
そこで突然彼女の声が途切れた。
?
縫っていた手を止め、顔を上げた。
彼女の手が、ボクの顔に伸びていた。
え?
「何を…」
ボクが言いかけると、彼女は悪戯っぽい顔で微笑んで、頬に触れ―
ボクの掛けていた眼鏡を取った。
え。
「ずーっと家の中でそげんこつやっとるから、ルビーは目ぇ悪いんよ!」
勝ち誇った顔。
…なるほどなるほど。
「どう?見えんやろ。
あたしの顔、見えとると?」
ボクは目を凝らして細める。
自身を指し、満足気な笑顔…だと見て取れた。
「いや…見えないよ。」
ああ、確かにはっきりとは見えないさ。
けど。
ボクは向かい合った彼女の両肩を手に取った。
顔を近付け―
彼女まで、数cm。
「この距離なら、見えるかな。」
吸い込まれそうな深い蒼の瞳には、ボクの姿が映っていた。
形勢逆転。
彼女の頬はバッと紅く染まった。
「な…な、なな…なんばしよっと!!!!」
突如ボクを勢いよく突き飛ばし、立ち上がった。
痛っ、頭打った。
そんなボクを見もせずに、逃げるように走り去っていった。
ふぅ。
ボクは寝転び、直したルリリドールを高く掲げた。
顔の真上に持ってくると、そいつは部屋の灯りを遮った。
「まったく…分かりやすいよなぁ?」
人形は、返答しなかった。
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ルビーは最強です。
(2009.1.15)